先輩インタビュー

高専生活のススメ 薄谷 ひとみさん 平成12年度 環境都市工学科卒業

高専を選んだ理由

 中学で志望校を選ぶ時期がやってきたとき、色々な学校について毎日同級生と話をしていました。その中で友達から初めて聞いた「高専っていう、5年制の学校があるらしいよ。」という話。それまで高専の存在を知らなかった私ですが、早速担任の先生にお願いして学校案内を取り寄せてもらいました。
 私が高専を選んだのは、「手に職をつけたい=早く就職したい」「普通科以外に行きたい」という2つの理由からでした。就職願望が強かったため、専門知識が身に付き就職率もいいという条件はまさに私が求めているものでした。そして「普通科」が嫌だった私にとっては、「専門科」の学校で、しかも「5年制」という他にはない形式がとても魅力的でした。一方中学の担任の先生からは、最後まで「普通科」を進められました。私が理数系の頭じゃないことを先生はよくわかっていたからだと思います。結果としては無事高専の環境都市工学科に合格し、5年間勉強して卒業出来ましたので、「得意な科目が理数系じゃない」人でも興味さえあればやっていけることが証明出来たと思います。

男ばかり(?)の高専生活

 高専に進むことを選んだ私ですが、実は小中学校時代は男子と話すことがあまり得意ではありませんでした。慣れようと努力したこともありましたが成果は出ないまま高専の入学式がやってきてしまい、これからどうなるのか想像もつかない状況でした。そんな入学式当日、学生玄関で出会った女子が、今は生涯の親友となっています。
 あんなに不安だったのに、その不安はすぐに消えていきました。確かに男が圧倒的に多い学校ですが女子もちゃんといます。はじめは戸惑っても、そのうち良い意味で男も女もなくなります。友達であり、先輩後輩であり。性別関係なく仲良くなれます。私のように男子が苦手だった人でも、半年もせずに状況に慣れますから大丈夫。
 それよりも最初不思議だったことは、同じ学校に成人した先輩たちが沢山いること。5年制なのだから当たり前なのですが、これは入ってみてから実感しました。部活にも5年生(20歳)がいて後輩の指導にあたっていました。15歳の自分が20歳の先輩に色々相談したり遊んだりしてもらえる、なんて面白い環境なんだろう!とワクワクしていましたね。

高専時代の仲間が生涯の親友に。

女だらけの寮生活

 私は女子寮で5年間過ごしました。寮は必ずしも入れるものではありませんが、もし入れるのならぜひおすすめします。正直、寮での生活は嫌なこともいっぱいあります。門限があるし、点呼もあるし、なにより共同生活ですからいつもまわりに人がいます。もう嫌だと思ったことが何度も何度もありました。しかしそう思うことがあっても、それ以上の経験が出来る、それが寮生活です。
 共同生活から学ぶことは多いと思います。配慮することを学び、家族のありがたさが身にしみてわかります。沢山の人に囲まれて過ごす時間は、意外にも自分と向き合う機会も増やしてくれるように思います。
 もっと単純に私が寮生活で今も強く覚えていることを3つお話しします。
 1つ目は、留学生と同じ階に暮らしたこと。生活習慣の違いを実感したり、テスト前には数学を教えてもらいに留学生の部屋に行っていました。
 2つ目、寮ならではの夜。夜になっても友達や先輩後輩にすぐ会えるのは寮のメリットです。勉強を教えてもらうことももちろん、レポートを一緒にやったり、恋愛トークで盛り上がったり。あこがれの先輩の部屋に招かれたときは舞い上がってドキドキしながら遊びに行きました。
 最後は一番印象的な、お風呂。私はいつもお風呂最終組でした。みんなそれぞれの生活スタイルがあるので、時間帯ごとに自然と同じメンバーが集まったりします。学年・学科・部活などで全く接点のない人とも、このお風呂タイムで仲良くなりました。お風呂からあがって夜の屋上に涼みに行くのは夏の楽しみでした。
※ 屋上に上がるのは禁止です。

寮での一コマ。寮祭の夕食風景で留学生の友人と。

進路について悩む

 人によって様々ですが、私は進路について2回悩む時期がありました。1回目は3年のはじめ。高校に行った中学の同級生たちが進路を決めている時期で、高専では2年までの科混合クラスから専門科クラスに変わる時期です。授業内容が一気に専門中心に変わります。専門の授業が増えるこのタイミングは「自分は本当にこの道でいいのか?」と自問する機会が増えるとき。専門という軸があるので、漠然とした悩みではなく、具体的に進路を考えられるときです。ここで進路を変更する人もいますが、それはそれで良いと思います。具体的に真剣に悩んだ末の結論ですから。
 もう1回は、4年生のとき。大学進学か就職かを悩みました。そのときの求人状況、業界の動きなどにより、就職希望者が大学に進むこともあります。4年でまだ悩んでるの?と思われそうですが、ここでもう一度立ち止まって考えてみるのもいい機会だと思います。先輩や先生にたくさん相談して、納得のいく道を選んで欲しいです。

卒業してから

 私は結局大学進学をせず、地元企業に就職しました。最初の仕事は専門知識を生かせる仕事でしたが、その後転職をし、だんだん専門から離れつつあります。私のクラスには卒業時女子が7人いましたが、今専門知識を生かした仕事に就いている人は2人だと思います。結婚出産により仕事から離れている人もいますし、私のように違う業種に進んでいる人もいます。
 せっかく5年間勉強するのですから、自分の得た知識を生かした仕事に一度は就いてみて欲しいと思います。一方で、ずっとその専門分野に居続けることにこだわる必要もないと思っています。私が知る限り、高専を出た人はどんなジャンルでも活躍出来るからです。
 高専というちょっと特殊な学校で過ごす時間は、知らず知らずのうちに様々な力を与えてくれます。どんなジャンルの仕事についても、そこに必要な基礎能力は高専で身に付いています。臨機応変にその場で必要な能力を発揮し、自分の次の力につなげて行くことができることでしょう。

高専生活のススメ

 最後に、高専生活これだけは経験しておきたいね!ということをお話しします。
 1つ目、部活動や学生会活動など、先輩後輩と関わる活動に参加しましょう。15歳から20歳までがいる珍しい環境ですから、それを体験しないなんてもったいない。15歳のときには20歳の先輩に相談したり教えてもらって、自分が20歳になったときはそれを15歳の新入生たちに返す。このサイクルは高専ならでは。
 そして2つ目、高専カンファレンスに参加しましょう。高専カンファレンスとは、高専の在学生と卒業生によるプレゼン型技術勉強会です。IT、工業デザイン、経営、物理、化学など多様性に富む発表を通じて若い技術者の育成や交流を促進し、高専および科学技術分野の発展を目指しています。開催によっては高専関係者以外の参加も大歓迎しています。高専に興味がある中学生のみなさんにもぜひ参加して欲しいなと思っています。
 この高専カンファレンスは全国各地で自発的に開催されています。全国の高専生や卒業生が「高専」というキーワードだけで集まるとても面白い会です。大学生も社会人も来ますから色々話を聞くことが出来ますし、全国にネットワークが出来ます。
 私は2010年に東京で、高専女子だけを集める「高専女子カンファレンス」を開催しました。高専を選んだ少数派女子を集める会でしたが、全国各地の高専を卒業した女子が集まってくれて、とても楽しい会になりました。(高専生だけでなく、工業高校卒業の方も参加してくれました。)大学の博士課程で勉強されている方、企業で人事を担当されている方、デザイナーの方などのプレゼン発表があり、普段自分の生活ではなかなか触れることの出来ない知識や経験を知ることが出来る貴重な機会でした。
 長野開催のとき、もしくは足を運べる範囲の近隣各県で開催されたときはぜひ参加してみて下さい。インターネットで中継もしています。高専カンファレンスが出来たことで、高専は「卒業してからも楽しい」学校になりました。

 高専の中で色々な人と関わる機会を持ち、専門を通して自分のやりたいことを見つめ、そして高専カンファレンスを通じて全国に幅広いネットワークを作って、とことん高専を楽しんで下さい。

薄谷さんが実行委員長を務めた高専女子カンファレンスにて。発表者も聴衆も全員、高専もしくは工業高校卒業の女性。
【 プロフィール 】
平成12年度に環境都市工学科を卒業し、建設会社の設計部や住宅設備機器メーカーに勤務。そんな中2010年に高専カンファレンスを知り、初めての女性だけの開催となる「高専女子カンファレンス」実行委員長を努める。在学中は弓道部に在籍。女子寮長を務める。 高専女子カンファレンスについてはこちらこちらをご参照ください。